ホーム  お茶と歴史  たしなみや余興としてのお茶

お茶と歴史

たしなみや余興としてのお茶 ~茶歌舞伎

●伝来から500年かけ、有名産地が登場

 お茶が日本に伝えられた平安当初から500年ほど経った鎌倉、続く室町時代には、喫茶の機会が増え、お茶の大衆化が進みます。貴重な薬だったお茶は、嗜好品、娯楽の対象の一面を持つようになります。

 平安初期、中国・唐からもたらされたお茶はとても貴重で、皇室や仏僧など限られた人たちだけが口にしていました。この頃は、毒消し、消化促進や眠気覚ましなどの薬効ある植物、薬や儀式用のアイテムとして扱われていました。

 鎌倉時代には中国・宋との交流が盛んになり、お茶の新しい製法や茶道具類も伝えられました。僧侶が各地に茶の種をもたらしたり、将軍らがその栽培を奨励したりして、栽培を試みる地域も次第に増えました。埼玉、静岡、京都、奈良、三重、鹿児島のように、現在の有名な茶産地のいくつかも、この頃に茶を栽培した記録が伝えられています。
また、中国で学んだ加藤四朗左衛門景正が、瀬戸で茶器の製造を始めたのもこの頃とされ、次第に、お茶が日本に定着しているのがわかります。

●茶歌舞伎は鎌倉・室町時代の一大ブーム

 お茶を口にする機会が増えると、産地によってお茶の色や味わいが違うことが知られるようになります。当時、最も良いお茶とされていたのが京都栂尾高山寺のもので、明恵上人が、栄西禅師から譲り受けたお茶の種を蒔いたのが始まりです。そのほかにも「栂尾の補佐に当たる任和寺、醍醐、宇治、葉室、般若寺、神尾寺。この外に大和室尾、伊勢河居、駿河清見、武蔵川越」が、有名な良いお茶の産地とされていました。(室町南北朝時代の『異性庭訓往来』による)

 こうしたお茶の品質や産地を見極める競技が闘茶(とうちゃ)です。中国に始まり、鎌倉時代の中ごろ、大応国師によって日本に伝えられたとされています。
 宋代の中国では、お茶の葉を粉末にしたものを入れた茶碗にお湯を差し、泡がたつほどよくかき混ぜて飲んでいました。この喫茶方法は、日本の抹茶のルーツにもあたります。現在のカプチーノのように、この泡に模様を描いて楽しんだこともありました。また、茶の品質を、水色、泡立て方~泡の形や泡が消えるまでの時間~などによって競うようになり、闘茶というゲームになりました。

 日本では茶香服・茶歌舞伎(ちゃかぶき)、茶寄合などとも呼ばれ、お茶の産地をあてるゲームへと独自に発展します。鎌倉時代の後半、貴族や武家を中心に流行し、賭け事として徐々にエスカレートしていきます。高価な品や家財を賭け、競技に負けて人生を棒に振るような事例もでてきて、社会問題化する程でした。
 これを憂いた足利尊氏は、室町幕府成立時の「建武式目」に茶寄合(闘茶のこと)の禁止を盛り込みます。これは功を奏せず、実際には、もう一つのお茶の文化・茶道が発展し、また、応仁の乱などの騒乱によって国内情勢が緊迫する中で、茶寄合も消えて行きました。

●今も続く茶歌舞伎の楽しみ

 鎌倉から室町時代にかけてバブルのように盛り上がり、はじけた茶歌舞伎は賭け事でしたが、「お茶の特徴を見極める」という点は、現代にも受け継がれています。数種類のお茶を見たり飲んだりして産地をあてる子ども向けの大会が開かれたり、茶業者がお茶の鑑定技術を高める一環として開催したりしています。
 現在は、お茶を作る技術や道具も変わり、お茶の種類もとても多くなりました。何気なく飲んでいるお茶も、お茶の産地、品種、製造方法などによる特徴を持っています。茶歌舞伎は、複数のお茶を比べながらお茶の特徴を知り、お茶を楽しむ感覚を研ぎ澄ませることができます。子どもの味覚を育てるのにも役に立ちますので、一度試してみてはいかがでしょうか。

■やさしい茶歌舞伎の楽しみ方

【用意するもの】

参加者席: 湯のみ(白の無地が良い)人数分、紙・筆記用具(人数分)、湯こぼし(飲み残しのお茶を捨てる、紙コップやボウルなどでも良い)、ティッシュ
主催者側: 茶葉(5種類)各100g、拝見本(茶葉を乗せるお皿)5枚、茶缶5つ、茶さじ、急須(300㏄程度の大きさ、お茶を淹れるのに使う)、ざると水を張ったバケツ(急須を洗うのに使う)、急須または湯冷まし(お茶を配るのに使う、急須でも良い)、秤、ポット(沸騰したお湯、急須の5倍量)、ふきん

*5~20人程度まで対応できます。人数が多い時は、急須や茶葉の量を増やします。

拝見盆のお茶

【準備】

  • 5種類のお茶を、それぞれ10g計り、茶缶に入れる。残りを拝見本に盛る。いずれも種類がわからなくならないように注意しましょう。
  • 主催者は、茶葉を見せる順番、お茶を淹れる順番をあらかじめ決めておきます。

【競技】

  1. 参加者が席に着いたら、茶葉を盛った拝見盆を、名前を伝えて順番に回します。
    参加者は、茶葉の色つや、形、香りなどを観察し、5種類の茶葉の特徴を覚えておきます。
  2. 主催者は、茶葉を見せる順番、お茶を淹れる順番をあらかじめ決めておきます。
  3. 主催者は、5種類の中から一つ選んでお茶を淹れます。
    急須に、あらかじめ茶缶にとっておいた茶葉を入れ、ポットから熱湯を8分目ほど注ぎます。30秒待ってから湯ざましに注ぎます。
  4. 主催者は、参加者席を回りながら、参加者の湯のみにお茶を注ぎます。
  5. 参加者は、配られたお茶が、先ほどの5種類のうちのどれかを推測します。
    お茶の水色、香り、味わいを参考にし、記入用紙に答えを書きます。
    (次のお茶が配られたら、答えを変更することはできません。)
  6. 主催者は、参加者が回答しているうちに急須を洗い、次のお茶の準備をします。
    お湯の温度と量、浸出時間を揃えます。
  7. お茶を淹れる→配る→回答する を繰り返ります。
  8. 最後に、主催者が、淹れたお茶の順番、種類を発表します。
    正解の多い人が勝ちです。

*お茶の名前の代わりに、「花・鳥・風・月・客」で呼ぶと風流ですよ。
*回答が終わったら、5つのお茶の種類と特徴を話し合ってみましょう。

■5種類の組み合わせ例

煎茶、玄米茶、ほうじ茶、紅茶、ウーロン茶 製造方法の違いによるお茶の特徴がわかりやすい、初心者向けの組み合わせです
静岡茶、狭山茶、かごしま茶、宇治茶、八女茶 産地ごとの特徴を知ることができます
煎茶(仕上茶)、煎茶(荒茶)、深蒸し煎茶、茎茶、芽茶 煎茶の製造過程や部位による違いを知ることができます

資料

『年表 茶の世界史 新装版』 松崎芳郎編著, 八坂書房, 2007年
『お茶の歴史』 ヴィクター・H・メア/アーリン・ホー共著, 忠平美幸訳, 河出書房出版, 2010年
『改訂3版 緑茶の事典』 社団法人日本茶業中央会発行, 柴田書店, 2005年