中近東、アフリカのお茶文化
~世界一お茶好きな人々のいる国~
●気候や信仰がお茶の消費を後押し!?
西アジアやアフリカでもお茶が飲まれているの?と思われる方もおいででしょう。日本ではあまり知られていないのですが、実はとてもお茶好きな地域なのです。一人当たりのお茶の消費量が世界で最も多いのは、イギリスでも中国でもなくペルシア湾に面した石油産出国・クウェート。一人当たり年間2.46kgを消費するクウェートを筆頭に、10位以内に西アジア、アフリカの国々が7か国もランクインしています。
これらの地域の喫茶文化は、中国やロシアから陸路で、またヨーロッパとアジアを結ぶ船によって海路で伝えられたのが起こりです。また、紅茶がよく飲まれる地域と、緑茶がよく飲まれる地域とがあります。
この地域でお茶がこれほどにまで普及したのは、自然環境や人々の信仰も関係しています。砂漠も広がる地帯では、のどの渇きをいやす飲み物にお茶が選ばれました。イスラーム圏では、戒律でお酒を禁止する宗派、加えてコーヒーやたばこもお酒に準ずるものとして規制していた時期があり、これらに替わってお茶が身近なものになりました。
アラブ諸国でもお茶がたくさん飲まれているなんて驚きだわ!
●生産地と消費地の間を埋めるように広がるお茶
西アジアやアフリカは、お茶の一大産地である東・南アジアと、世界のお茶消費をけん引してきたヨーロッパの間にあって、双方の影響を受けてきました。
ペルシア(現在のイラン)とアラブ諸国の多くには、陸路でお茶が伝えられました。ペルシアでは、13世紀にモンゴルが西アジアまで勢力を拡大して以降お茶の存在が知られるようになります。16世紀ごろからお茶の交易が盛んになり、中央アジアを通って運ばれたお茶が、この地に根付きます。また、ペルシアからメッカへ巡礼の旅に出る人たちがお茶を携えるようになったため、アラビア半島にもお茶が伝えられました。
トルコへは、ロシアから喫茶文化が伝わったと言われます。ロシアは、国内のお茶需要に応えるため、19世紀にグルジアでお茶の栽培を始めます。これが次第に南下し、ロシア独特のサモワールとともにトルコで普及しました。トルコは現在、お茶の消費も生産も多い国になりました。
アラビア半島の港町、地中海を挟んでヨーロッパに面する北アフリカには、17世紀以降、アジアとの海運を拡大するヨーロッパ諸国によってお茶が伝えられました。東アフリカや南アフリカには、インド、セイロンに次ぐお茶生産地を求めたヨーロッパ諸国が、茶園を拓き、紅茶の生産技術をもたらしました。
お茶の産地とお茶の消費地に挟まれて、各地のお茶文化が往来していたのかも知れないわね。
●西アジア、アフリカで愛されるお茶の飲み方
この地域では全般に、甘いお茶が好まれています。アフリカではミルクを入れる習慣がある地域もあります。お茶に使う道具には、銀やアルミニウムのポットやトレイ、ガラス製品がよく使われます。装飾を施したものは特に美しく、お土産品としても人気です。
この地域で特徴的なお茶を二つ紹介します。
○トルコのチャイ
トルコでは砂糖をたっぷり入れた紅茶が一般的で、一日のうちに何度もお茶を飲みます。お茶のデリバリーサービスが普及していて、買い物しながら、立ち話しながら、街のあちらこちらでお茶を飲む光景を見かけます。
トルコ式のお茶・チャイを淹れ、飲むときに使われるのが、二段式のポット「チャイ・ダンルック」と小ぶりなグラス「チャイ・バルダック」です。ポットはロシアのサモワールと似た仕組みで、下はお湯を沸かすやかんとして、上はお茶を淹れるポットとして使います。また、上のポットでは、茶葉を少量のお湯で蒸らしてから、再度お湯を入れて浸出するのも特徴です。グラスは、チューリップのような形をしていて、トルコらしいきらびやかな装飾が施されたものもあります。
○モロッコのミントティー
18世紀ごろ、モロッコにはイギリスからお茶が輸出されていました。この頃、イギリスのお茶のブームは緑茶から紅茶に移りつつありましたが、モロッコでは緑茶が好まれました。
モロッコではもともと、今でいうハーブティーが飲まれており、そこに緑茶が加わり、現在のミントティーが生まれました。ミントのほかに、サフラン、セージなどのハーブを使う場合もあります。
モロッコのミントティーは、あらかじめ温めておいたポットに細かめの緑茶、生のミントと砂糖をたっぷり入れ、そこに熱湯を勢いよく注いで作ります。茶葉、ミントとも、その成分を十分に浸出させるのが望ましく、「甘く、苦い」パンチの利いた味わいが、熱い国で好まれています。