茶種によるお茶の区分
~お茶が生まれ持つ特徴~
●チャの品種とは?
世界のお茶を見ると緑茶、紅茶、ウーロン茶などがあり、色、香り、味わいは様々です。こうしたいろいろな種類のお茶は、チャノキ ~ツバキ科ツバキ属の常緑樹カメリア・シネンシス(Camellia sinensis)という学名の常緑樹~ からつくられる点で共通しています。
しかし、世界や日本各地のお茶の木をよく見ると、似ているところもありますが、違うところもあります。植物であるチャの木は、生育地の環境、自然あるいは人為的な交配によってさまざまな特性を持つことがあるからです。
チャノキは、葉の大きさ、木の高さなどの特徴から、アッサム種(大葉種)と中国種(小葉種)の2系統に大別されています。そして、より細かい特徴による識別に「やぶきた」、「べにふうき」などの品種があります。品種が異なると、木や葉の大きさや形だけでなく、病気への耐性、摘採時期、香りや味に影響する成分割合、適した加工方法などが変わります。
参考に、他の農産物の例を見てみましょう。イネ科イネ属の植物である稲は、日本に多くみられるジャポニカ種、東南アジアなどにみられるインディカ種に大別されます。そして、私たちが店頭で見かけるコシヒカリ(水稲農林100号)、ササニシキ(水稲農林150号)、ヒメノモチ(水稲農林糯221号)といった名前は、品種を表しています。品種によって味わいや食感が変わり、中には、お餅やお酒用のものもありますね。
お茶の「やぶきた」が、お米の「コシヒカリ」と同じ位置づけだということがわかると思います。
品種は、そのお茶の由来や本来の特性がわかる、お茶の血統書のようなものなのね!
●日本のお茶の品種あれこれ
煎茶、玉露や抹茶、紅茶、ウーロン茶には、それぞれにふさわしい品種があります。お茶農家は、どんなお茶を作るのか、それに合わせて品種を選び、栽培します。
品種ごとの栽培面積をみると、実に75%を「やぶきた」が占めています。やぶきたが、お茶の大多数を占める煎茶に向いていて、栽培、製茶、色沢や香味などで総合的に優れていることによります。
最近は、やぶきた一辺倒にならないように新たな品種に植え替えたり、個性的なお茶を求める動きにあわせて希少品種を育てたりする生産者もいます。
■緑茶の主な品種別にみた栽培面積割合(平成20年)
データ:平成23年度茶関係資料 社団法人日本茶業中央会、(元データ:農林水産省生産局生産流通振興課)
親しんだやぶきたのおいしさも良いけれど、いろいろな品種の個性も味わってみたいわね!
●チャの品種改良と品種登録制度 ~おいしさを求めて~
○チャの品種改良
豊富な優良品種は、明治時代以降の研究者や育種家による育種の積み重ねで作られてきました。日本で茶の品種研究の先駆となったのが杉山彦三郎翁です。スーパー品種のやぶきたを始め、やぶみなみ、こやにしなど、数多くの品種を選抜しました。
当時は、自然交配の実生(茶の種から出た芽)から、育ち具合や製茶した香味を見て、良いものを選び、増やしていました。多くの品種や系統が整理されてきてからは、それぞれの特徴を踏まえた人工的な交配、栄養系選抜が行われています。
○品種登録制度
日本には野菜、果樹、花卉などの品種登録制度があり、優良な品種を育て、新品種育成者の権利を守り、適切な流通を図ることによって農林水産業の発展を目指しています。
お茶に関する品種登録は、現在、二つの法制度に基づいて行われています。(※それぞれの登録数は2011年11月現在、二つの法制度に重複して登録されている品種もある)
茶の品種につけられる名前は固有で、その特徴を表しています。やぶきたはもともと「藪北」、こやにしは「小屋西」と書かれていました。これらは、選抜した場所から呼ばれるようになったとされます。また、さやまかおり、さつまべに、星野緑などは、その品種が選抜・育成された地域をすぐに推測できる名前です。おくみどり、おくゆたかなど「おく」のつく品種には、晩生や中晩生が多くみられます。べにふうき、べにふじのように「べに(紅)」がつくのは、紅茶向け品種を意味しています。
農林水産省命名登録品種/農林認定品種
国の試験研究機関、また国から委託を受けた試験研究機関によって選抜されたり、開発されたりした品種の登録制度です。
もともとは「命名登録制度」と言い、試験研究機関への委託等により育成された優良品種の認定と命名を農林水産省が行っていました。茶の登録は54種です。
平成19年度に制度が改正され、「農林認定制度」となりました。試験研究機関への委託事項に、命名も含めるようになり、優良品種が農林水産省によって認定されます。現在までに茶は1種が登録されています。
農林水産省命名登録品種/農林認定品種
べにほまれ、あさつゆ、みよし、たまみどり、さやまみどり、やぶきた、まきのはらわせ、こやにし、ろくろう、やまとみどり、たかちほ、いんど、はつもみじ、べにたちわせ、あかね、なつみどり、やえほ、あさぎり、きょうみどり、はつみどり、べにかおり、べにふじ、ひめみどり、いずみ、さつまべに、おくむさし、やまなみ、べにひかり、うんかい、かなやみどり、さやまかおり、おくみどり、とよか、おくゆたか、めいりょく、ふくみどり、しゅんめい、みねかおり、みなみかおり、さえみどり、ふうしゅん、みなみさやか、ほくめい、べにふうき、りょうふう、むさしかおり、さきみどり、はるみどり、そうふう、さいのみどり、はるもえぎ、みやまかおり、ゆめわかば、ゆめかおり、さえあかり
※登録番号順。
※データ:農林水産研究情報センター「農林認定品種データベース 」及び農林水産省技術会議「農林認定品種一覧」
種苗法による登録品種
優良な新品種は、一朝一夕にできるものではありません。選抜、育成された植物の品種に関しては、種苗法で品種を登録できます。知的財産を守る特許法のように、登録された品種とその育成者の権利が保護され、優良な新品種の育成や農業・園芸の発展が図られています。
種苗法によるこれまでのチャの登録品種は59件、うち30件が現在も登録継続中です。
種苗法登録品種
星野緑(ほしのみどり)*、おくゆたか*、司みどり(つかさみどり)*、たかねわせ*、さとう早生(さとうわせ)*、おくひかり*、めいりょく*、ふくみどり*、いなぐち*、寺川早生(てらかわわせ)*、みねかおり*、みなみかおり*、しゅんめい*、さえみどり*、茶中間母本農1号(ちゃちゅうかんぼほんのういちごう)*、ふうしゅん*、みなみさやか、さわみずか、べにふうき、ほくめい、みねゆたか*、松寿(しょうじゅ)*、摩利支(まりし)*、みえ緑萌1号(みえりょくほういちごう)*、あさのか、藤かおり(ふじかおり)*、山の息吹(やまのいぶき)*、茶中間母本農2号(ちゃちゅうかんぼほんのうにごう)、さがらひかり*、さがらみどり*、香駿(こうしゅん)、さがらかおり*、さがらわせ*、さきみどり、りょうふう、みどりの星*、むさしかおり、りょくふう*、茶中間母本農3号(ちゃちゅうかんぼほんのうさんごう)、成里乃(なりの)、奥の山、はるみどり、つゆひかり、みえうえじま*、そうふう、さいのみどり、みやまかおり、はるもえぎ、きら香(きらか)、鳳春(ほうしゅん)、展茗(てんみょう)、茶中間母本農6号(ちゃちゅうかんぼほんのうろくごう)、茶中間母本農5号(ちゃちゅうかんぼほんのうごごう)、茶中間母本農4号(ちゃちゅうかんぼほんのうよんごう)、蓬莱錦(ほうらいにしき)、ゆめわかば、ゆめかおり、金谷いぶき(かなやいぶき)、金谷ほまれ(かなやほまれ)
※登録番号順。*印は育成者権消滅の品種
※データ:農林水産省品種登録ホームページ
登録されていない品種
品種登録制度が定着している現在ですが、その制度にのらない品種のお茶も栽培されています。現在のように、品種のチャノキが流通する前は、「在来種」と呼ばれる種類が育てられていました。チャノキは、土壌や自然環境が合えば何十年と生育するため、改植を行っていない茶畑には、昔からの在来種が残されていることがあります。現在、全国の茶畑全体の約3%が在来種です。
海外から持ち込まれ、日本での研究や申請が行われていない場合、日本での品種登録制度に沿った登録が行われずに生産されている場合もあります。
また、試験研究機関には、優良品種として登録されていないものの、固有の種類であると認められ、番号等で整理されているものが多数あります。こうした未登録の品種を掛け合わせて、優良品種が創造されることがあります。(やぶきた×静岡在来16号=おくみどり、べにほまれ×枕Cd86=べにふうき)
お茶も『名は体を表す』で、特徴をその名前からイメージするのも楽しいわね。