日本のお茶文化
~日本人の心を映して~
●お茶は、日本人が探究するおもてなしの姿
一杯のお茶は、人をほっとさせることがあります。お茶菓子や食事に添えられていれば、なお、心地よいひとときが過ごせるでしょう。このお茶の魅力は、「まあ、お茶でも」という何気ない言葉とともに、日本ならではのおもてなしに欠かせないものとなっています。
中国から仏教とともに伝わったお茶は、禅思想の影響も受けながら、茶の湯として独自の様式に作り上げられました。
客人のために心を込めて準備をし、共に過ごす時間を大切にする。それがもてなしの基本であり、目指すところです。抹茶から始まった茶道は、江戸以降に煎茶道も成立しています。茶道での作法や考え方は、日常生活にも生かされるものがあり、日本社会へ浸透しています。
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→もてなしとしてのお茶
茶の湯は、お茶や作法はもちろん、もてなしに関わる幅広い世界を探究しています。総合芸術と呼ばれるほど広く、深い茶の湯の文化は、世界に誇る日本の宝と言えるでしょう。
茶の湯のもてなしの気持ちは、姿かたちは変わっても、日本人の日々の生活に頻繁に見ることができます。
個人宅を訪れる客人、お店のお客さん、旅行者、通りがかりの人にもお茶を淹れ、話に花を咲かせたり、労をねぎらったりしてきました。
日本の生活に根差したもてなしの文化を、これからも大切に受け継いでいきたいですね。
●地域で変わるお茶の色、地域文化に染まるお茶
○番茶・御当地茶にみる地域文化
日本のお茶のルーツは、奈良時代や鎌倉時代の仏僧が、中国から持ち帰った茶の種や製造方法にあります。この通説の一方で、記録に残る高名な僧とは別のルートでお茶が伝えられ、あるいは、古くからチャの木が自生していたのではないかという説もあります。日本各地をめぐると、そうした説がもっともだと思える時があります。畑とは思えないところに茶の古木があったり、今日主流の煎茶とは違う製茶方法、お茶の使い方がされていたりするのです。
このような地域独自のお茶は、番茶に分類されるものが多くあります。チャの木からつくられるのに、色合い、香り、味わいはそれぞれ個性的。最近人気の御当地グルメに倣って、「御当地茶」と呼ぶのも良いですね。
チャの木からお茶を作るのには、簡単には、一折の枝を火にあぶり、やかんなどで煮出せば十分です。しかし、手間暇かけた個性的な製造方法や、独自の喫茶方法を伝えている地域には、それを始めるきっかけや、その道を究める理由があったに違いありません。
御当地茶の中には、災禍や後継者不足で伝統の灯が消えそうなものもあります。地域内の再認識と周囲の応援も増やして、それぞれの地域の大切なお茶が、地域文化の一翼を担い、未来の人にも愛され続けることを願います。
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○地域で変わるお茶の好み、お茶の風習
旅先で出されたお茶が、見慣れたものと色や味わいが違って驚いた経験はありませんか?伝統的にみえる「日本茶」も、よく見るとひとくくりにできないぐらいのバリエーションがあります。お茶の種類がいろいろある理由の一つは、茶産地それぞれの製造方法が発展したことと、地域によってお茶の好みが異なることにあります。
九州では、中国から伝わった釜炒り製緑茶の製法が受け継がれていることもあり、すっきりした釜炒り茶が一般的な地域があります。
松江では江戸時代の風流な文化を受け継ぎ、抹茶を家庭や職場で日常的に点てて飲む習慣があります。
長野や東北などの寒冷地では、熱々のお湯で淹れて美味しいほうじ茶や番茶が好まれ、また、お茶請けには漬物が人気です。
北関東で好まれる煎茶は、仕上げの火入れ香が強めのもの。九州南部や静岡県の中西部などでは、しっかり育った茶葉を長めに蒸して、濃く、鮮やかな緑色が特徴の深蒸し煎茶が一般的です。
気候風土や歴史的な経緯により、地域それぞれに馴染んだお茶、お茶の習慣が形成されてきました。
冠婚葬祭でのお茶の用い方も、地域による特徴があります。九州やいくつかの地域には、結納にお茶を使う風習があります。結納の品々の一角に、豪華な水引をかけた茶壷、茶箱、あるいは茶筒が並びます。興味深いのは、この中には高級なお茶は入れないのだということ。品質の良いお茶は「よく出る」ことから、嫁ぎ先から出ることのないように、敢えて「あまり出ない」お茶を使うのだそうです。この「結納茶」の習慣から、九州のお茶屋さんでは、結納用品一式を取り扱うところもあります。
他方、不祝儀の際の香典返しとしてお茶を使う地域も各地にあります。