東アジアのお茶文化
~中国から始まる魅惑的なお茶の世界~
●中国のお茶生活 ~毎日、いつでも、お茶とともに~
世界一のお茶の産地であり、一大消費エリアでもある東アジア。長い時間をかけて濃密なお茶の文化を発展させ、世界へも大きな影響を与えてきました。
東アジアの中でも中国は、その歴史の長さ、生産や消費の量やお茶文化の厚みがずば抜けた、世界一のお茶の国と言えるでしょう。
台湾もお茶の生産が盛んで、茶館などお茶を楽しむ場所も人気です。お茶が本格的に導入されたのは比較的最近のことです。韓国は、自然環境からお茶の栽培にはあまり適さず、とうもろこし茶やゆず茶など、チャ以外を使った飲み物が伝統的に親しまれてきました。近年は茶の栽培も盛んとなり、独自の茶道「韓国茶礼」も盛んになってきています。
○中国の日常のお茶
中国の生活にはお茶ががっしりと根を張っています。
食事の時はもちろん、客人をもてなすとき、くつろぎのひとときにもお茶が使われます。店先や事務所に茶器が置かれ、いつでもお茶が飲めるようになっているのも珍しくありません。車の運転手や屋外で仕事をする人は、茶葉を入れたマイ水筒を持ち歩き、お湯を継ぎ足してはお茶を飲んでいます。
中国の日常のお茶の飲み方はいたってシンプル。お気に入りの茶器に手ばかりで茶葉を入れ、沸きたての熱いお湯を注ぎます。茶器は、急須に限らず、「蓋碗」という蓋付きの湯飲みを急須代わりにしたり、カップに茶葉もお湯も入れてそのまま飲んだり。茶葉は煎がきく(何杯も飲める)ものも多く、何杯もお茶を飲みながら、気が置けない人たちとおしゃべりに花を咲かせます。
一方、独自の文化を受け継いでいる中国少数民族には、お茶使いにも個性があふれています。雲南省南部のワ族は、茶葉をあぶってから急須で淹れ、西南部のハニ族は、土鍋で茶を煮立てて供します。珍しいところでは、中国西南部のチベット族は、煮出した緊圧茶に、バター、クルミ、ごま、松の実、卵、塩などを加えて撹拌した「バター茶」を常用しています。北部のモンゴル族やカザフ族は、煮出したお茶にミルクと塩を加えて飲んでいます。お茶とともに穀類や木の実、スパイス、塩などを加え、スープのように食べる民族も少なくありません。
お茶の産地では、お茶を使った料理も昔から好まれています。龍井茶のエビ炒め、碧螺春のシラウオ炒め、鉄観音の鶏煮込み、紅茶の東坡肉(トンポウロウ・豚角煮)など。その種類も多彩です。
このようにお茶は、日常の栄養補給に、また、特別な日の一品として、中国各地で重宝されています。
○茶館で過ごす豊潤な時間
中国・台湾でお茶を楽しむ場所としておすすめなのが「茶館」です。単にお茶を飲むだけではなく、サロンのような役割も持ち、古くから愛されてきました。今日でも、家族や親しい人たちが賑やかにおしゃべりしていたり、老紳士たちが碁盤を囲んで談笑したり、ビジネスマンが商談をしていたり、じっくりと本を読んだり勉強する学生がいたりします。
半日、一日滞在することもあるという茶館には、日本で見かける喫茶店やカフェやバーのいずれとも異なる特徴があります。中国のお茶の特徴や人々の気質を背景にした、茶館独自のスタイルをご紹介します。
茶館には、それぞれのお店選りすぐりのお茶が置かれています。メニューからお茶を選ぶと、茶葉と茶器、コンロにかけられたやかんが席に運ばれてきます。店員が一煎目を淹れてくれるところもあれば、最初から客自身で淹れる店もあります。常に熱々のお湯を傍らに、各自が自分なりの作法とペースで、自由にお茶を飲むことができます。煎がきき、何杯も飲んで楽しめる中国茶にふさわしいサービスですね。
お茶請けは、甘い菓子、木の実や南瓜などの種子を乾燥させたもの、ドライフルーツが好まれます。バイキング形式で用意されている茶館もあり、温かい点心なども加わり、おなかを十分に満たすこともできます。
お店の雰囲気もそれぞれに工夫を凝らしています。照明を落とし幽玄な雰囲気を演出した茶館、中国らしい赤や黄色のアクセサリーが飾られたエネルギッシュな茶館、周囲の山や湖と一体となった開放的な造りの茶館など。歴史や自然を感じ、文化に浸ることも、発展する経済を感じることもできます。
お茶を囲んで話を楽しむ、中国の茶の間はにぎやかでとっても楽しそうね!
●中国のお茶文化・芸術
お茶に関わる中国の文化・芸術は幅広く、層が厚いものがあります。お茶を楽しむことに精神性や芸術性を見出し、茶道が形作られ、お茶をより楽しむための品々、お茶を題材にした芸術作品が創造されてきました。
○茶芸~中国茶的流儀~
中国茶の歴史の中では、その作り方とともに、淹れ方と飲み方も大きく変わってきました。唐の時代は、餅のように固めておいた茶葉を砕き、あぶり、煮出して飲む「煎茶」、宋の時代は、臼で挽いた粉茶を少量の水で練り、湯を足し、茶せんでかき混ぜて飲む「点茶」という方法でした。明代になり、現代に近い茶葉の加工法が発明され、飲み方も今日のような方に変わりました。
飲み方が変わっても、中国には古くから、お茶を飲むときの雰囲気や精神性を大切にして、芸術的な側面からもお茶を楽しもうという「品茶」の価値観がありました。また、客を茶でもてなす「茶宴」やお茶の品質や審美眼を競う「闘茶」が盛んとなり、それが茶道や茶芸の基礎となりました。
「茶芸」は、日本の茶道のような茶を中心とした総合芸術も指していますが、今日では、お茶でもてなす所作やパフォーマンスの意味合いで頻繁に使われています。近年みられる茶芸は、台湾での発展に功績があります。中国茶の味わいや芸術性を追求した作法が形作られ、お茶の種類に合わせた機能性と芸術性を兼ね備えた道具類も充実しています。茶館によっては、中国武術や舞踊を思わせるダイナミックな動きでお茶を淹れ、お客を魅了しているところもあります。
福建省など中国の南部では、青茶(ウーロン茶)をおいしく飲むための淹れ方や道具類を、明・清代から独自に発展させてきました。これを、手間暇かけて(工夫)お茶を淹れ、楽しむ様子から「工夫茶」と呼ばれています。青茶は、味だけでなく香りにも特徴があり、それをいかすために高温の湯で淹れます。香りを楽しんでから舌で味わい、飲み終えた後も、杯に残り、また、体の中から湧き上がる余韻にひたります。
なお、お茶のもてなしを行う茶芸、お茶の品質を見る評茶には、それぞれ「茶藝師」、「評茶員/師」という資格があります。中国政府による職業資格で、一定の訓練や経験、試験によって認められ、初級、中級、高級などの等級もあります。茶館や茶の製造販売に従事する際の要件となっているものもあります。
○お茶から広がる文化芸術の世界
日本の茶道にみられるように、中国茶の世界でも、お茶を中心に豊かな文化芸術の世界が創造されてきました。
古くは、お茶の発見にまつわる神話、銘茶のいわれをうたう伝説が、受け継がれてきました。皇帝、仏僧、文化人に好まれていたことから、当時の様子が故事として伝えられたり、書画や詩などに残されたりしました。日本でもおなじみの水滸伝、三国演義、西遊記などの中国古典小説にも、茶がしばしば登場します。お茶にまつわる名所や風光明媚な景勝地は、お茶を素材にした詩や絵画の世界を一層膨らませました。
茶器・茶具は古くからありましたが、明・清の時代に今日のものに近い茶葉がつくられるようになり、茶器・茶具も大きく変化しました。江西省景徳鎮では白磁や染付の茶杯や急須が、江蘇省宜興では紫砂の茶壷(急須)がつくられるようになり、陶磁器の発展にも貢献しています。
古い書画、茶具などの貴重なものは、北京や台湾の故宮博物院などに所蔵され、大切に受け継がれています。
音楽の分野では、茶摘みなどの作業歌と祭典などで披露する踊りが各地に伝えられています。お茶を楽しむための音楽も普及しています。銘茶の名前を冠した曲、茶産地の山河を思わせる環境音楽風の楽曲などがあります。茶道や儀式、茶館のBGMに、自宅でのリラックスタイムに、中国伝統楽器の音色が、お茶を何杯もおいしくしてくれます。
お茶にまつわる文化の奥深さは、お茶の楽しみをますます広げてくれそうね!
●バラエティに富んだ中国のお茶
中国茶の生産地域は広大な国土に広がっています。お茶の発祥地と言われる中国内陸南部の雲南省から、西は四川省、北は黄河流域の陝西省、東シナ海沿岸の山東省、江蘇省、浙江省、福建省、広東省などに囲まれた地域、そして台湾でお茶がつくられ、産地は数えられないほどあります。
茶畑の環境は、標高千メートル級の高地、奇岩が並ぶ山地、霧深い台地など、バリエーションに富んでいます。こうした産地の風土、国内外の消費者のし好にあわせて栽培・製造方法も発展し、お茶の種類は千を下らないと言われるほどです。
○中国茶の分類
数ある中国茶も、茶葉の酸化発酵のしかたによって6種類に分類することができます。また、再加工され、販売されるお茶も別に分類することができます。
・基本的な中国茶の分類
・再加工茶
○十大銘茶
中国茶は、銘茶と呼ばれる有名なものだけ数えても数百になると言われます。その中でも品質や歴史などが特に際立つものをセレクトしたのが十大銘茶です。
中国茶は、外観からとても個性的。豊かな香りは、日本でも好まれているわね。