特別なチャの木
~生きるお茶の資料~
●お茶の歴史を伝える特別なチャの木
一面に広がる緑色のうねは、日本各地の茶産地で見ることができるお茶畑の典型的な姿です。効率的にお茶の木を育て、収穫するため、お茶を一定間隔で植え、定期的に枝を切り落として高さや幅を揃えています。また、50年ぐらいして木の勢いが衰えてくると、新しい木に植え替えるのが一般的です。
こうした茶の木とは別に、植え替えられたり刈られたりすることなく育ち続けている茶樹や、研究に使われた茶樹があります。また、中国などからもたらされた茶が起源と言われる古い茶園もあります。こうした貴重なチャの木、茶園をご紹介します。
○日吉茶園
滋賀県大津市にある、最澄ゆかりの茶園。
今から約1200年前の805年、伝教大師最澄が唐より茶の種を持ち帰って比叡山麓に蒔き、これが、日本への茶樹伝来の起源と言われています。
参道近くに茶園が置かれ、その脇には「日吉茶園の碑」が建てられています。碑には、最澄が唐から日本へ、茶を初めて伝えたことについて記されています。毎年5月に茶摘祭や献茶が行われています。
所在地:滋賀県大津市坂本
○栂尾高山寺(とがのおこうざんじ)茶園
京都市栂尾にある、明恵上人ゆかりの茶園。
今からおよそ800年前の鎌倉時代、栄西禅師が宋から持ち帰った茶の種を明恵上人に贈り、明恵上人が栂尾に植えたと言われます。栂尾のお茶は、鎌倉から室町時代に最高の品質を誇り、また、後の宇治茶の起源ともなりました。
茶園はもっとも古い時代の場所から移動し、現在の茶園の横に「日本最古之茶園」の碑が建てられています。現在も、5月中旬に茶摘み、11月に献茶式が行われています。
所在地:京都市右京区梅ヶ畑栂尾町
○嬉野の大茶樹
佐賀県嬉野市に残る、推定樹齢350年の茶の古木。国の天然記念物に指定されている。
嬉野茶の祖・吉村新兵衛氏は、栄西が茶を蒔いたとされる背振山からチャの種を取り寄せ、不動山に植えました。この大茶樹は、慶安年間(1648-1652)に植えたうちの一本と伝えられています。
樹高約4.6m、枝が大きく伸びて、小山のような姿をしています。この茶の木は小葉種で、中国にも見られない大きさだということです。
所在地:佐賀県嬉野市嬉野町大字不動山
○藤枝市瀬戸の谷(せとのや)の大茶樹
静岡県藤枝市の山あいにある茶の古木。
藤枝市瀬戸ノ谷の平口家の前に生えており、樹高4メートル、周囲28メートルあります。
伝えによると、西暦1700年頃に平口家の祖先が種をまいたそうで、樹齢は約300年になります。
今でも春先には元気な新芽を伸ばしています。毎年足場を組んでお茶摘みが行われ、生葉で約15キロの収量があります。
所在地:藤枝市瀬戸ノ谷(大久保地区)
○日本紅茶原木
静岡県静岡市丸子にある日本紅茶の原木。
千葉県出身の多田元吉は、明治維新後に静岡へ移住し、丸子で茶業を始めました。輸出用の紅茶育成・製茶技術を求める明治政府の命により、明治8(1975)年以降、中国やインドへ渡り、調査を行いました。帰国後は全国で紅茶製造法を伝えたり、製造機械の公安などを続けました 。
多田元吉翁が、インドから持ち帰った種の一つが、日本紅茶原木として彼の墓所の近くで成長しています。その近くには記念碑が建ち、駐日インド大使らが植樹した紅茶品種も育っています。
所在地:静岡市駿河区丸子赤目ヶ谷
○霧島の大茶樹
鹿児島県の北部、霧島牧園町にある大茶樹。最古の木の二代目にあたる。
初代の大茶樹は国の天然記念物で、江戸時代初期の寛永年間に植えられたと言われています。明治の終わり頃、そこから挿し木したものが現在の大茶樹です。
樹齢約100年、樹高は約4メートル、枝は直径6メートル以上に伸びています。
所在地:鹿児島県霧島市牧園町持松
○やぶきた原樹
静岡市にある「やぶきた品種」の原樹。
江戸末期から昭和時代の茶育種家・杉山彦三郎は、「良い木から良いお茶を作る」茶の品種の考えを持ち、この地にあった自園の中でいくつかの優れたチャの品種を選抜しました。そのうちの一つが「やぶきた」で、その元となる品種を1908年に選抜しました。茶業界にその良さが認められたのは、氏の死後のことで、戦後に急速に普及し、全国の栽培面積の8割を占めるまでになりました。
展示されているのは、杉山彦三郎氏の茶園にあったものを株分けしたもので、珠光3メートルほどあります。原樹の隣には顕彰碑も建てられています。
所在地:静岡市駿河区谷田
大茶樹や茶の古木は、見慣れたお茶畑からは想像できない形と大きさをしているわね!